私、秀平が刀鍛冶として在る理由。
高校生の時に、東京国立博物館で開催されていた国宝展で「名物 観世正宗」に出逢い、導かれるように、刀鍛冶を志した。
そこにあったのは、自分という存在の深いところに生じる直感のようなものである。
刀が欲しいのではなく、刀が好きだから刀に関わる仕事をしたいというのでもなく…
私にとって、刀を作るという行為は修行である。
修行というと、歯を食いしばって耐えるようなものというイメージを抱く人もいるかもしれないが、そればかりが修行なのではなく、修行とは基本的には繊細に自分を見つめる行為であると認識している。繊細に見つめる…
自分を繊細に見つめる。
生きていく中で、何をするにも、それは出来ることである。
つまり、生きていく中であらゆることが、修行になり得る。そして、私にとっての“刀鍛冶になるという選択”は、人生という修行の大部分を作刀に充てるということを…
[略歴]
刀工銘:秀平(ひでひら)
本名:根津 啓(ねづ けい)
昭和58年 東京都出身
平成18年 北海道大学工学部材料工学科卒業
平成18年 宮入小左衛門行平師に入門
平成23年 作刀承認
平成24年 第3回「新作日本刀・研磨・外装 刀職技術展覧会」初出品 金賞第2席 及び新人賞受賞
平成24年 第7回 「お守り刀展覧会」第7席 全日本刀匠会賞受賞
平成25年 第4回「新作日本刀・研磨・外装 刀職技術展覧会」 金賞第2席受賞
平成25年 第8回 「お守り刀展覧会」第3席 長野県教育委員会賞 及び新人賞受賞
平成26年 第5回「新作日本刀・研磨・外装 刀職技術展覧会」 銀賞第1席受賞
平成27年 第6回「新作日本刀・研磨・外装 刀職技術展覧会」
経済産業大臣賞受賞
平成27年 第10回 「お守り刀展覧会」第11席 全日本刀匠会賞受賞
平成27年 長野市信更町に秀平鍛刀道場を構え、独立
平成28年 第7回「新作日本刀・研磨・外装 刀職技術展覧会」 金賞第1席受賞
作品のご紹介。
以下のような工程を経て、一振りの刀が出来ます。
銑(ずく)や小粒の玉鋼、スラグを多く含んでいる部分等、そのまま鍛錬して材料とするのに向かない素材や古和鐵などを、火床(ほど)で熔解し炭素含有量の調整やスラグ分の除去を行う。
まず、テコ棒の先に鍛接したテコ台の上に、水圧しした素材をのせて、泥と藁灰をかけて沸かす「積み沸かし」を行う。
その後は、延ばしては切り込みを入れて折り返し、また藁灰と泥をかけて沸かすというサイクルを、適宜数回繰り返す。
この工程でも炭素含有量の調整やスラグ分の除去が行われる。
また、組織の調整も鍛錬の目的の一つである。
注)沸かす:鐵を火床の中に入れて、溶融寸前まで加熱すること。
刀身に焼き刃土を塗って、乾燥後、火床で加熱し、水中で冷却する。
この工程で刃紋が生まれる。
反りを調整し、曲がりを直す。
粗い砥石で重ね(厚み)や肉置き(刃部のふくらみ具合)を整える。
樋センを用いて樋を彫り、砥石や紙ヤスリで整える。
茎にヤスリ目をつけ、目釘穴を開ける。
鏨(たがね)を用いて、茎に作者の銘や製作年等を刻む。
この後、研師や白銀師、鞘師等の刀職者の手を経て、一振りの刀が完成する。